「善逸、これを見てくれ」


昼休み、突然炭治郎に見せられたスマホの画面に映っていたのは、1枚の絵だった。

「えー?なんだよいきなり・・・・・・って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇl!?何これ!?」



そこに描かれていたのは一面黄色の蒲公英と、そこに1人の後ろ姿。どう見ても俺だった。










「ちょっと宇髄せんせぇぇぇぇ!?」
「おわっ!おま、ドアは静かに開けろ!ビックリするだろーが!!」

放課後、美術室に突撃した。驚いた宇随先生に怒鳴られたが、今はそんなことどうでもいい。

「この絵!先生なら誰が描いたか知ってんでしょ!?」
「あー?なにこれ拡散されてんの?」

俺が突き付けたスマホに映っている絵を見て先生が聞いてきた。
そうだ。昼に炭治郎が見せられた絵は、今うちの学校内で拡散されている。
分かっているのは、描いたのは学園内の生徒で、美術のコンクールに出されて優秀賞を取ったらしいということだった。
おかげで俺は廊下を歩けばジロジロ見られて溜まったもんじゃない。



「みょうじなまえ。3年、美術部」
「へ?」
「だから、それ描いたのだよ。3年のみょうじ。で、それ知ってどうするんだ?文句でも言うつもりか?」
「え、いや、まあ、一言くらいは・・・と思ってはいるけど・・・」

問われて思わず声が小さくなってしまう。確かに、ちょっとくらいは、と思ったが、考えたら勢いで来てしまっただけで盛大にクレームを言うつもりではなかった。

「ふーん。じゃあちょうどいいんじゃね?探してた人物がお出ましだぜ?」
「は?」

先生が指差した方を振り向くと、ショートボブ女の子が立っていた。
顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせながらこちらを見ている。



不覚ながら、結構タイプだった。



「な、ななな何で我妻君がここに!?」
「なんかお前の絵が拡散されてんだってよ。で、殴り込みに来たらしいぜ」
「殴っ・・・!?ちょっと勝手なこと言わないでよね!ち、違うから!そんな物騒なこと考えてないから!!」

慌てて否定したけど、みょうじ先輩の真っ赤だった顔は、みるみる真っ青になっていった。

「ご、ごめんなさい!勝手に描いちゃって!我妻君の髪とタンポポのコントラストが綺麗で、思わず描いちゃって、そ、それ先生に見られて、コンクールに出せ出せって言われて、まさか賞とか取れるわけないとか思ってたら取っちゃって、しかも私の知らないところで拡散とかされちゃってるし、私も何が何だか分からなくて、それで」
「うん!うん!分かった!分かったから1回落ち着こう!」

先輩が息継ぎなしで一気に捲し立てるので、思わず肩を掴んで止めた。はっと我に返ったらしい先輩は、ごめん、と消え入りそうな声で謝る。
流れで肩を掴んでしまったけれど、間近で見ても、やっぱりタイプだ。睫毛は長いし声も可愛い。先輩のはずなんだけど、良い意味でそんな感じもしない。
なんて不謹慎なことを考えていたら、思い付いたように先輩が顔を上げた。


「そうだ我妻君!もし時間があるなら、今からお茶とかどうかな?奢るし!迷惑かけたお詫びと、モデルになってくれたお礼がしたいの!」
「え、えぇぇぇ!?」
「おー行け行けー。こんなとこでイチャイチャしてんの見せ付けられるこっちの身にもなれよ、お前ら」
「そういうんじゃないですから!お詫びとお礼ですから!」

すっかり存在を忘れていた宇髄先生が、手の甲で追い払うような仕草をして出て行くように促す。
そりゃあ、こんな棚からぼた餅状態で先輩とデートできるなんて、こんなラッキーないけどさ。いいの?こんな簡単にいいの??

「も、もちろん、我妻君が嫌じゃなければ、だけど・・・どうかな?」

おそらく挙動不審だった俺に、先輩が聞く。小首を傾げながら。いやいや、そんな可愛いポーズしなくていいですから!

「ぜっ全然嫌じゃない、です!!」

思わず声が大きくなってしまって、先輩は一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐに、

「よかった」

と言って笑った。




あ、笑った顔、初めて見たかも。


そう思うと急に体中の血液が巡ってきて、熱くなるのが分かった。有り得ないくらいドキドキする。
そんな俺を気に留めることもなく、先輩は「じゃあ行こっか」なんて言って外に向かっていった。










ちらりと先生の方を見ると、これでもかというほどニヤニヤしていた。
めちゃくちゃムカついたから無視してやった。



そして俺も先輩を追って外に出た。どうやってもっとお近づきになろうと考えながら――――。








配布元「確かに恋だった」